百科事典のようなAI技術の包括的な教科書(エージェントアプローチ 人工知能/AIMA:Artificial Intelligence: A Modern Approach)

Artificial Intelligence: A Modern Approach

  • 発売日 ‏ ‎ 2020/4/28
  • Stuart Russell (著), Peter Norvig (著)
  • 言語 ‏ : ‎ 英語



『Artificial Intelligence: A Modern Approach』(日本語版『エージェントアプローチ 人工知能』)は世界で最も読まれている有名な人工知能の教科書(とのこと)です。

流行り廃りがあるAI分野において、初版(英語版:1995年)から最新の第4版(英語版:2020年)まで、改定を続けながら長きにわたって地位を保っている凄い本です。

この本は、その筋?では「AIMA」と略されるようです。

英語版ですが、この本に関する Wikipedia のページがあります。

ところで人工知能にはいろいろな定義があることは有名な話ですが、この本では以下のように定義しています。
  • 本書の主要な統一テーマは、知的エージェントの概念である。我々は人工知能を、環境から知覚し、行為を行うエージェントの究明と定義する。そのような個々のエージェントは知覚を行為に変換する関数によって記述される。本書では、これらの関数を表現する多くの異なった方法を取り上げる。

これは日本語第2版の前書きにある定義ですが、この考え方は最新版の第4版でも引き継がれています。

そして第2版から第4版まで、本の最後は Alan Turing のエッセイの最後の一文で締めくくられているのも興味深いです。
  • 「我々はあと一歩のところまできていることが分かる、そして同時に、なされなければいけない多くのことが残っていることも。」

この本は確立された技術を淡々と説明する教科書ではなく、知的エージェントを作るには何に取り組む必要があり、それらに対してどのようにアプローチするか、といったストーリーを感じます。そして、執筆時点での新しい技術にも触れられていますし、哲学的な話題や未来についても書かれています。

このため、教科書というより、読み物としての面白さがありますし、AI技術の百科事典やカタログのような使い方もできます。

AI 研究者ではなく、業務システム開発を生業とする私がこの本のことを書くのは恐れ多いので、本で触れられている技術ではなく、この本の印象を中心に書くことにします。
(むしろ専門系の方よりも、私のような専門外の人の方が気楽に楽しめる本だったりして。)

<本の内容>

以下に、私が持っている日本語版(初版と第2版)と英語版(第4版)の目次を比べてみます。(第3版以降は日本語版はありません。)

初版から一貫したテーマをもとに組み立てられているため、章レベルの目次だけ見るとあまり変わっていないように見えますが、実は、版が変わると中身がすっかり変わっているところも多いです。

では、過去の日本語版(初版と第2版)などは歴史的な価値しかないのか?といえば、そんなことは無いと思っています。

私にとって日本語版の最大の価値は、日本語で読めるということですが(笑)、確立されている技術の部分については、日本語版は今でも有用だと思いますし、最新版を英語で読む前に、日本語で予習?することもできます。

また、翻訳陣も凄い方々ばかりなので、今ではこのレベルの翻訳は難しいのではないかと思ったりします。

さらに、どうでもよいことではありますが、日本語版(初版、第2版)には、今となっては大変珍しい栞紐(しおりとして使えるひも)がついていて貴重です(笑)。

ところで、原著の副題は「A Modern Approach」なのに、なぜ日本語版では「エージェントアプローチ」なのか?と思っていましたが、その答えは第2版の「監訳者前書きに」にありました。個人的には原著のタイトルも「エージェントアプローチ」にしたほうが良いのではないかと思ったりします(笑)。

エージェントアプローチ 人工知能

  • Stuart Russell (原著), Peter Norvig (原著), 古川 康一 (監訳)
  • 発売日 ‏ : ‎ 1997/12/1
  • 言語 ‏ : ‎ 日本語
  • 単行本 ‏ : ‎ 937ページ


目次
  • Ⅰ人工知能
    • 1序論
    • 2知的エージェント
  • Ⅱ問題解決
    • 3探索による問題解決
    • 4知識に基づく探索手法
    • 5ゲームプレイング
  • Ⅲ知識と推論
    • 6論理的推論エージェント
    • 7一階述語論理
    • 8知識ベースの構築
    • 9一階述語論理による推論
    • 10推論システム
  • Ⅳ論理的行為
    • 11プランニング
    • 12現実的なプランニング
    • 13プランと行為
  • Ⅴ不確実な知識と推論
    • 14不確実性
    • 15確率的推論システム
    • 16単純な意思決定
    • 17複雑な意思決定
  • Ⅵ学習
    • 18経験からの学習
    • 19ニューラルネットワークと信念ネットワークによる学習
    • 20強化学習
    • 21学習における知識
  • Ⅶ対話、知覚、行為
    • 22対話するエージェント
    • 23実用的な自然言語処理
    • 24知覚
    • 25ロボティクス
  • Ⅷ結論
    • 26哲学的基礎
    • 27AI:現在と未来

エージェントアプローチ人工知能 第2版

  • Stuart Russell (原著), Peter Norvig (原著), 古川 康一 (監訳)
  • 発売日 ‏ : ‎ 2008/7/10
  • 言語 ‏ : ‎ 日本語
  • 単行本 ‏ : ‎ 1000ページ



目次
  • Ⅰ人工知能
    • 1序論
    • 2知的エージェント
  • Ⅱ問題解決
    • 3探索による問題解決
    • 4知識に基づく探索と探査
    • 5制約充足問題
    • 6敵対探索
  • Ⅲ知識と推論
    • 7論理的エージェント
    • 8一階述語論理
    • 9一階述語論理による推論
    • 10知識表現
  • Ⅳ論理的行為
    • 11プランニング
    • 12実世界におけるプランニングと行為
  • Ⅴ不確実な知識と推論
    • 13不確実性
    • 14確率推論
    • 15時間を伴う確率的推論
    • 16単純な意思決定
    • 17複雑な意思決定
  • Ⅵ学習
    • 18経験からの学習
    • 19学習における知識
    • 20統計的学習手法
    • 21強化学習
  • Ⅶコミュニケーション、知覚・行為
    • 22コミュニケーション
    • 23確率的言語処理
    • 24知覚
    • 25ロボティクス
    • 26哲学的基礎
    • 27AI:現在と未来

Artificial Intelligence: A Modern Approach

  • Stuart Russell (原著), Peter Norvig (原著)
  • 発売日 ‏ : ‎ 2020/4/28
  • 言語 ‏ : ‎ 英語
  • ハードカバー ‏ : ‎ 1136ページ



目次
  • ⅠArtificial Intelligence
    • 1Introduction
    • 2Intelligent Agents
  • ⅡProblem-solving
    • 3Solving Problems by Searching
    • 4Search in Complex Environments
    • 5Adversarial Search and Games
    • 6Constraint Satisfaction Problems
  • Ⅲ Knowledge, reasoning, and planning
    • 7Logical Agents
    • 8First-Order Logic
    • 9Inference in First-Order Logic
    • 10 Knowledge Representation
    • 11 Automated Planning
  • ⅣUncertain knowledge and reasoning
    • 12Quantifying Uncertainty
    • 13Probabilistic Reasoning
    • 14Probabilistic Reasoning over Time
    • 15Probabilistic Programming
    • 16Making Simple Decisions
    • 17Making Complex Decisions
    • 18Multiagent Decision Making
  • ⅥMachine Learning
    • 19Learning from Examples
    • 20Learning Probabilistic Models
    • 21Deep Learning
    • 22Reinforcement Learning
  • ⅦCommunicating, perceiving, and acting
    • 23Natural Language Processing
    • 24Deep Learning for Natural Language Processing
    • 25Computer Vision
    • 26Robotics
  • ⅧConclusions
    • 27Philosophy, Ethics, and Safety of AI
    • 28The Future of AI

(参考)

書籍のサイトがあります。

本の中ではアルゴリズムが疑似コードで示されていますが、各種プログラミング言語による実装コードがGithubで公開されています。
ちなみに、本の内容とは関係ありませんが、以下のサイトにある動画で、著者の一人である Peter Norvig さんのお姿を拝見できます(笑)。
「My name is Peter Norvig, and when I joined Google in 2001, my title was "Director of Machine Learning”」だそうです。

<感想>

私は初版(日本語)、第2版(日本語)、第4版(英語)の計3冊持っています。

エージェントアプローチ人工知能の初版,2版,4版の厚さ比較

ご覧の通り、とても分厚い本で、読み応え十分?です。
  • 初版(日本語版):937ページ
  • 第2版(日本語版):1108ページ
  • 第4版(英語版):1115ページ
日本語版と英語版は紙質も違いますので単純には比較できませんが、やはり1,000ページを超えると、読み物というより辞書とか百科事典というイメージが。。。

参考文献の量だけでも圧倒されるし、索引の項目数も半端ではありません。

取り上げている内容が広範囲なので、AI技術を列挙するだけでもかなりのページになるのは理解できるのですが、読んでみると、多くのページを割いているのは、教科書にありがちなアルゴリズムや定理の証明などではありません。

これまでプログラミング言語の設計者自身が書いた本を読むことは多かったのですが、これらの本で取り上げる例題やサンプルコードがとてもよくできていて、唸らされることが多かったです。(言語設計の意図がよく分かります。)

この本も同じような印象で、取り上げる手法のアプローチの有用性が理解できるような丁寧な説明に多くのページが割かれてています。(ただし、詳細に入っていくと、やっぱり難しいものは難しいのですが(涙)。)

大学の教科書にありがちな「各手法を厳密に述べる」というスタイルというよりは、問題へのアプローチが例題を中心に具体的に書かれていますので、各章の最初の方を読むだけでも価値があるように思えます。

話は変わり、どうでもよい話ですが、実は私がAIMAの本を3冊そろえたのは最近です。

第2版が出た頃に書店でこの本を見かけたことはありますが、私にはお門違いな高価な本として当時はスルーしてました(笑)。

最近、あるきっかけで AIMA の最新版が出版されることを知り、Amazonで探すと予約受付が始まっていました。

しかし値段を見たら高価だったので、まずは中古本で安かった日本語の初版を購入して読むことにしました。

初版を読みはじめると予想よりはるかに面白かったので、早速第4版を予約しました。

同時に、初版は第2版でかなり書き換えられていることを知り、第4版が発売されるまでの間に日本語版の第2版を中古本で買って読むことにしました(第4版は予定より遅れて発売になりました)。これが私が3冊持っている理由です。

実際には、私は第2版でかなり満腹になってしまい、第4版は興味がある部分のみ斜め読みしたような状況です(読んだというより、見た、というほうが正しいか(涙))。

本ブログの2本目の記事『「エージェント」と「環境」を意識して業務システムを少し賢くしたい』でこの本について少し触れた後、第4版をかなり理解できた、と自分で納得できるレベルになったら記事を書こうと思っていました。

しかし、それではいつまでたっても書けないことに気づきましたので(涙)、今のうちに書いておくことにしました(笑)。

もっとも、私の場合は書かれていること全てを理解する必要もないので、基本的なところと興味あるところが理解できただけでも十分元が取れたと思う(ようにしています(笑))。

最後になりますが、第3次AIブーム記念企画(笑)でもよいので、今こそ第4版の日本語版を出版して欲しいと思っています。(が、私には手が出ない高価な本になる恐れもありますね。。。)

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