文字や文字コードに興味を持ったら絶対に読むべき本(ユニコード戦記)

ユニコード戦記 ─文字符号の国際標準化バトル

小林龍生 (著)
発売日 ‏ : ‎ 2011/6/10



文字を扱わないアプリは殆ど無いと思います。

そして、アプリを普通に使う上で文字が問題になることは殆ど無いと思います。

しかし何か特別な事情、例えば、人名や地名などを正確な字形で表現する必要がある場合は、非常に難しい問題に直面します。

ローカルPC内に閉じた話であれば「外字を作ればいいじゃん」で解決できても、何らかの電子的な情報交換や再利用の必要がある場合、それは解決策にはなりません。

加えて(恥ずかしながら)最近になって日本語には非常に多くの漢字がある事を知り、そもそも文字とは何なのか?、とか、文字の規格はどのようにして決まったのか?など疑問がどんどん溜まってきました。

そこで、技術書や規格書ではなく、その背景を知るための本を探して読むことにしました。

それが今回紹介する本『ユニコード戦記 ─文字符号の国際標準化バトル』です。

この本は、文字に関する体系的な技術書ではありませんが、文字の規格に関する多くの背景を知ることができ、さらに文字コード関係以外の読み物としても非常に面白く、読み終えると、何だか感動する?という、素晴らしい本でした。

ちなみに、この本はユニコードなどの前提知識が無くても読める本だと思いますが、JIS漢字やユニコードのことを知って(特に疑問を持って)読むと非常に興味深く読むことができます。

<本の内容>

本の雰囲気を知るために、まずは目次を見ておきます。話の進み方は物語風です。

【目次】
第1幕 序章
  • 第1章 参戦
    • 1 召集令状
    • 2 緒戦
    • 3 初戦果
    • 4 パックス・アメリカーナ
    • 5 出張の嵐
    • 6 ルビタグ縁起
    • 7 情報帝国主義
  • 第2章 戦友
    • 1 去りゆく古参兵
    • 2 バディ参戦
    • 3 最初の提案
    • 4 ルビ戦争勃発
    • 5 先任軍曹
    • 6 共同議長
  • 第3章[幕間1] 一九九五年ごろの文字コード
    • 1 コンピューターの発展と文字コード規格の変貌
    • 2 日本語情報処理の発展と国際符号化文字集合への蠕動
    • 3 そして、ぼくの前史
第2幕 国内戦線
  • 第4章 JIS X 0213と国際整合性
    • 1 重大ニュース
    • 2 やっかいな問題
    • 3 数々のすれちがい
    • 4 グローバル化への高い代償
  • 第5章 表外漢字字体表
    • 1 ユニコード批判の嵐
    • 2 白熱する議論
    • 3 深まる議論
    • 4 答申が残した課題
  • 第6章 JIS X 0213:2004
    • 1 表外漢字字体表とJIS漢字規格の整合
    • 2 残された課題
  • 第7章[幕間2] カンバセーション
    • 1 ピックポケット
    • 2 ヒデキの激怒
    • 3 ヨーロッパ縦断一七時間の旅
    • 4 英会話は女子大で
    • 5 絶頂期のトレーニング
第3幕 国際戦線
  • 第8章 CICC活動
    • 1 ミャンマー文字 ー希有な成功例ー
    • 2 クメール問題 ー外人部隊の跋扈ー
    • 3 クメール問題 ー前言撤回ー
    • 4 CICCによる実証実験
  • 第9章 SC2議長
    • 1 SC2議長就任
    • 2 議長の息抜き
    • 3 ISO / IEC 14651 ー英語とフランス語版の整合性ー
    • 4 ミスターインビジブル
    • 5 SEIとマイノリティスクリプト
    • 6 SC2議長にできること
  • 第10章[幕間3] ヒデキとぼくは何と戦ってきたか
    • 1 文字コードと自然言語との関係
    • 2 ユニコード批判の中心に位置するもの
    • 3 人名漢字のアポリア
第4幕 終章
  • 第11章 最後の戦い
    • 1 封印されたヴァリエーションセレクター
    • 2 ヴァリエーションセレクター、漢字適用への道
    • 3 汎用電子情報交換環境整備プログラムとIVS
    • 4 戦いの行方
あとがき
付録
  • 1 用語解説
  • 2 自習教材用ガジェット
  • 3 参考図書

<感想>

この本には様々なテーマが含まれています。例えば、
  • 規格策定機関の組織構成や規格化のプロセス
  • その裏側にある多くの戦友との物語
  • 国際規格と国内規格
  • 文字と文化的背景
  • 符号化文字と視覚表現
  • 英語力の必要性と英語力アップ
などなど。

多くの内容が含まれているのに、散漫にならず一気に読めるのは、規格化の過程や戦友との物語と結び付いているからのように思います。

私がこの本で一番印象深いのは、戦友の方々(’特に「ヒデキ」さん)との物語です。

お互いのリスペクトをもって真剣に取り組む仕事があり、さらに自身の成長も感じられるというのは、何だかとても羨ましく、読んで感動しました。

逆に言えば、規格の策定が如何に難しく、厳しい作業であるかがわかります。

その他、いろいろな示唆や刺激になることが多い本なのですが、以下では文字に関することについて書きます。

過去に本ブログでも2つほど文字に関する記事を書きました。

文字とか文字コードのことがよく分からなくなってきたところでこの本を読んだので、疑問がスッキリ晴れた、とはいきませんが、なぜこのような規格になったのか?と思ったところの理由が分かり、そういうことでしたか、とか、規格とはこういうものか、という妙な納得感が得られました。

特に第10章には、文字コードと文字の関係について、具体例を交えて説明があり、私はとても共感しました。

ちなみに、付録の用語解説「キャラクターとグリフ」の項の書き出しには「10人100通りの異論が出るに違いない。そんなわけで、この項についてはあくまでもぼくの私見という事で」と書いた上で解説が書かれています。

この項に限らず、本書の文字における解釈は、規格化の観点が中心だと思いますので、他の観点から見ると様々な解釈もありそうですが、私には納得がいくものが多いです。

私の場合は漢字や日本語が苦手ということもあってか、この本を読み終えた後には、規格のありがたさとか、愛着がわいた感じがします。

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